グループ分けの基本!同値関係と商集合(1)
こんにちは、ラスクです!
先日、投稿したべき乗和についての記事が(結城先生のおかげもあり)様々な方に読んでいただけたようです。
自信作だったこともあり、とてもうれしいです!
皆様、ありがとうございます。
まだ読んでいない方は、こちらからどうぞ。
mathforeveryone.hatenablog.com
また、この記事で予告した「差分を用いたテイラー展開」の話はまだ準備中ですのでもう少しお待ちください。
さて、今回は学部1年生が集合論の授業で習うであろう「同値関係と商集合」について話していきます。
これは、入学したばかりの数学科の学生の多くが難しいと感じるものだと思っています。。
ただこの概念、わかってしまえば全く難しくないので、出来るだけ丁寧に解説していこうと思います。
全二回に分けてこのテーマを扱います。
まず、第一回となるこの記事では「同値関係」について考えていこうと思います。
「商集合」については次回の記事をお待ちください!
同値関係の定義
では始めていきましょう。
まず同値関係を考える前に、一般の二項関係の定義を見てみましょう。
定義(二項関係)
を空でない集合とする。
このとき任意の元の順序を持った組に対して関係をもつ/もたないが決められているとし、
\begin{align}
x\sim y:\Longleftrightarrow (x,y)は関係をもつ\\
x\nsim y :\Longleftrightarrow (x,y)は関係をもたない
\end{align}
と書くことにする。
このときには二項関係が定められているという。
(上の定義は、あまり厳密な書き方ではありませんが、そこについてはちょっと目をつむることにします。)
結局、二項関係というのは順序を持った組に対して「これはOK、これはNG」と○×をつけているようなものです。
ここで、注意しなければならないのは例え(つまり(x,y)はOK)であったとしても(つまりもOK)とは限らないことです。
例えば、整数の集合に対して
\begin{align}
x\sim y :\Longleftrightarrow 0\le x-y
\end{align}
という二項関係が定められていたとしましょう。
するとはなので、となります。
しかし、なのでとなってしまいます。
つまり一般の(同値関係かわからない)二項関係においては、順序をきちんと考えることが重要です。
このことは後々でも大切になってくるので、覚えておいてください。
では二項関係のことが分かったうえで、本題である同値関係の定義を見ていきましょう。
定義(同値関係)
を空でない集合とする。このときに定められた二項関係が以下の3つの条件を満たすとき同値関係であるという。
任意のに対して
①(反射律)
②(対称律)
③(推移律)
どうでしょう、上で言っていることはお分かりになるでしょうか?
抽象的な数学の書き方に慣れていない方(それこそ学部1年生とか)は「???」となってしまうでしょう。
そこでこの記事では上の定義の意味を100%完璧に理解するという事を目標にしたいと思います!!
結論から言えば、同値関係というのは、集合をいくつかのグループに分けるために必要なものなのです。
関係を持つ者たちの集まりでグループを作って、集合を分けるために①~③の条件が必要になります。
そのことを納得するために、まずは上の定義に現れる3つの条件の言っていることを明確にしてから、最後にいくつかの例を見ていきます。
全部きちんと読む必要はないので、自分の知りたいと思うところだけ読んでいただければと思います。
3つの条件の意味
それでは3つの条件の意味を考えていきましょう!!
………といいたいところですが、
そこに入る前にどーーーーーーーしても説明しなければならないことが一つあります。
それは、定義の①から③の前に書いてある次のの文です。
に定められた二項関係が以下の3つの条件を満たすとき同値関係であるという。
このことから、同値関係というのは二項関係の一種であるという事がわかります。逆に言えば二項関係で3つの条件を満たせば、なんでも同値関係であるという事です。
このことをわかっていない人がとても多く、それが同値関係というものを意味不明にさせている一つの原因だと思います。
どういうことかというと、ここでの同値関係を高校で習う「同値=必要十分条件」と混同してしまう人がいるという事です。
実際、私が学部の授業で習ったときも
「は?同値って必要十分条件のことじゃないのかよ?意味わからんわー」
といっている人を何人もみました。
誤解を恐れずに言うと、ここでの同値関係は上で定義した二項関係の一種でしかなく、「必要十分条件」とはまーーーーーーーーったく関係ありません。
おなじ"同値"という言葉を使っているので、ややこしいですがこのことは心にとめて置いてください。
では、改めて①~③の条件について考えていきます。
反射律
まずは
①(反射律)
ですが、これは簡単です。
これはすべての元が自分自身と関係を持っているというものです。これがないと話になりません。
グループ分けの観点から言うと、これは
「自分は自分と同じグループに属している」
という事を保証していることになります……そうじゃなかったら意味が分かりませんね(笑)
対称律
次に
②(対称律)
です。これはが関係を持っているならも関係を持っているという事を表しています。
つまり関係を持つ/持たないというのが、まさに対称なものになっているという事ですね。
このことは一般の二項関係については保証されていないのでした。
一つ簡単な例を考えてみます。ある人がある人に連絡が取れるかどうかという関係を見てみましょう。このとき、さんからさんに連絡を取れるのならば(基本的には)さんからさんに連絡を取ることもできるでしょう。
よってこの関係は対称律を満たします。
グループ分けの観点でいうと
「さんがさんと同じグループならば、さんはさんと同じグループである」
という事を表しています……これもそうでなければ困りますね。
推移律
最後に
③(推移律)
です。これはが関係を持ち、も関係を持っているならばも関係を持っているという事です。
つまり、とがつながっていて、がとつながっているならばとも(を介して)つながれるという事です。
また先の例でみれば、さんからさんに連絡が取れ、さんからさんに連絡が取れるのならば、さんはさんに頼んでさんに連絡を取ることが出来ます。このようなことを推移律は言っているわけです。
グループ分けの観点では
「さんとさんが同じグループ、さんとさんが同じグループならばさんとさんは同じグループである」
という事を言っています……やはりこれもそうでなければおかしいですね。
以上が、同値関係の3つの条件の意味になります。どうでしょう、わかってきたでしょうか?
簡単に図にまとめると次のようになります。
以下では、同値関係の例とそうでない例を見ていきましょう!
同値関係の例やそうでない例
では、例を見ていきますがポイントを一つ。
同値関係を教わったときに、最初に言われる例として整数集合における余りによる分類があげられます。この例も難しいものではないですが、まずはもっと素朴な例を見てみることにしましょう。
このあたりのことは数学的な概念というより、もっと一般的な概念につながるので普通の教科書とかには書きにくいのでしょう。
人類みな家族 VS. 孤独な世界
まずは非常に簡単な例を二つ。
唐突ですがを人類全体のなす集合とします。このとき上の関係を
\begin{align}
x\sim y :\Longleftrightarrow yはxの家族である
\end{align}
と定義しましょう。このとき①自分は自分と家族で②自分にとって相手が家族ならば相手にとって自分も家族で③家族の家族は家族です*1。よってこのは同値関係という事になります。
もし、人類がみなアダムとイブという二人の子孫だとするならば、全員がこの同値関係によって結ばれることになります。
つまりこの同値関係では、全員が同じグループであり、人類みな家族であるという事です。
対して、
\begin{align}
x\sim y :\Longleftrightarrow yはxと同一人物である
\end{align}
としましょう。もちろんこれは同値関係ですが、ドッペルゲンガーがいないとするとこの同値関係では、自分は自分自身としかつながれません。つまり、自分のグループには自分しかいない、孤独な世界が出来上がります…悲しいですね。
友達関係
では次に
\begin{align}
x\sim y:\Longleftrightarrow xはyと友達だ(と思っている)
\end{align}
という関係を見てみましょう。このとき皆が他人のことを友達かそうでないかきっちりと区別できているなら取り合えず二項関係であることはOKです。また①自分は自分自身と友達だというのもとりあえず認めましょう*2。
しかし
②さんがさんを友達だと思っているなら、さんもさんを友達だと思っている
というのは残念ながら成り立たないでしょう。また
③友達の友達は友達だ
というのも無理がありますね。
よって、このという言わば友達関係は同値関係にはならないわけです。ちょっと世知辛いですね。。
余りによる分類
では最後に、さきほどいった整数集合の余りによる分類を考えましょう。定義は以下の通りです
整数全体のなす集合と以上の整数に対して
\begin{align}
x\sim_n y:\Longleftrightarrow x\equiv y(\bmod n)
\end{align}
とする。つまり二つの整数をそれぞれで割ったとき余りが同じならば関係を持ち、異なれば関係を持たないという事です。
この関係が同値関係になることは…簡単なので省略します*3。
では、例えばとしたときが全部でいくつのグループに分かれるかお分かりになるでしょうか??
そう!つですね!
なぜなら、で割った余りはのつしかなく、全ての整数が以下のようにどれかのグループに入るからです。
\begin{align}
(余り0):&\ldots,-8,-4,0,4,8,12,\ldots\\
(余り1):&\ldots,-7,-3,1,5,9,13,\ldots\\
(余り2):&\ldots,-6,-2,2,6,10,14,\ldots\\
(余り3):&\ldots,-5,-1,3,7,11,15,\ldots\\
\end{align}
このようにを余りによって分類することは受験数学でも必須のテクニックであり、また大学数学的に言ってもユークリッド環の分類というものの入り口になっていて非常に重要です。
最後に
いかがでしたでしょうか?同値関係わかっていただけましたか?
最初に定義を見た時より、見え方が変わったと思えたなら嬉しいです!
個人的な意見ですが、抽象的な数学の議論をしているとどうしても意味不明な定義が出てきます。そういう時はとてつもなく自明なものでもいいので、できるだけ簡単な例を考えてみることから始めてみると案外すんなり飲み込めることが多いです。
今回は人類全体の家族関係、友達関係を見るなどちょっと「数学なの?」と思えるような例まで出しました。でも逆に言えばこのような一般的な概念にまで通用するのが数学の概念のすごいところの一つだと思っています。同値関係とはグループを作るときの人間の思考を定式化したモノです。そう考えると、とっても自然なモノに思えてきますよね。
さて、今回はこのくらいにしましょう。
次回の内容ですが、今回グループ、グループといっていたものがあります。それをきちんと定式化するために商集合を導入し、またwell-definedという概念にも触れようと思います。これまた学部1,2年生の大敵ですが、今回これだけ同値関係を丁寧にみたので結構すんなりいけるのではないかと思っています。
では最後までご覧いただきありがとうございました!!
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それではまた次回お会いいたしましょう!