ラスクのMathematics for Everyone!

数学が得意な人もそうでない人もちょっとだけ楽しめるようなブログです。

2次体の単数群の構造。ペル方程式再び!

みなさま、ご無沙汰しております。ラスクです。

年末に挙げた微分加群の記事が非常に好評で、アクセス数なども安定してきました。
ありがとうございます。

さて、今回はペル方程式第二弾!と致しまして、その「代数的整数論への応用」を見たいと思います。
具体的には、「2次体の単数群」の構造をペル方程式によって決定できるという話をします。

今回の話は完全に大学数学の範囲になるため、代数学や代数的整数論の本当に基本的な内容は知っている人向けに書きます。
ただし、出てくる用語についてはその都度確認しながら進めるので、あまり自信のない方でも是非読んでみてください!

また、今回の記事の後半で実際にペル方程式を解くことになります。ペル方程式の解の構造や一般解の求め方については前回扱った記事があるので、まだ読んでいない方はこちらからどうぞ!!

mathforeveryone.hatenablog.com


では、さっそく始めていきましょう!



整数環とその単数群

以下Kを代数体、つまり有理数\mathbb{Q}の有限次拡大とします。
次の節以降ではもっぱらKとして2次体を考えますが、この節では一般の代数体としておきます。

代数体の整数環

Kの整数環の定義を復習しましょう。


定義.
\mathbb{Q}上代数的な元があるモニック(最高次の係数が1)な有理整数係数多項式の根になるとき代数的整数であるという。
また、Kの元であって代数的整数であるもの全体のなす環をK整数環といい、\mathcal{O}_Kとあらわす。
\mathcal{O}_Kの元をK整数という。


上の定義において、モニックという条件は非常に大切です。これがないと、\mathbb{Q}上代数的な元全てが代数的整数になってしまい、代数的整数という言葉に意味がなくなってしまいます。
また、上の定義では代数的整数全体が環をなすことをしれっと言っていますが、実際にはこれは非自明なことで証明が必要です。ここでは長くなるので省略をしますが、一般的には「行列式の技法」というものを使うと示すことが出来ます。

整数環の概念に不慣れな人のために2次体での例を挙げてみます。慣れている方は読み飛ばしていただいて構いませんが、後半でこれらの例を使うことになるためご注意ください。

例1.
K=\mathbb{Q}(\sqrt{2})とします。このとき体の一般論から\begin{align} K=\mathbb{Q}+\mathbb{Q}\sqrt{2}=\{a+b\sqrt{2}\ |\ a,b\in\mathbb{Q}\} \end{align}と書けます。そしてその整数環は\begin{align} \mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\sqrt{2}=\{a+b\sqrt{2}\ |\ a,b\in\mathbb{Z}\} \end{align}となります。つまり、\sqrt{2},1+\sqrt{2}などはKの整数ですが、\frac{1}{2},1+\frac{1}{3}\sqrt{2}などはKの整数ではありません。

例2.
次にK=\mathbb{Q}(\sqrt{5})とします。このときも\begin{align} \mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\sqrt{5}\tag{×}\end{align}となると思いがちですがこれは間違いです!実際、\frac{1+\sqrt{5}}{2}は右辺の集合には含まれませんが、\begin{align}x^2-x-1\end{align}という多項式の根であることからKの整数になります。
ただしくは、\begin{align}\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\frac{1+\sqrt{5}}{2}\end{align}となります。初めて見た方は「なんでやねん!」って感じかもしれませんね(笑)



上の例のように2次体については、その整数環をかなり具体的に書き表すことができ、事実として以下のことが成り立ちます。

命題1.
Dを平方因子を含まない整数とする。このとき2次体\mathbb{Q}(\sqrt{D})の整数環\mathcal{O}_Kについて以下が成り立つ。
(i)D\equiv 2,3\mod{4}ならば\begin{align}\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\sqrt{D} \end{align}
(ii)D\equiv 1\mod{4}ならば\begin{align}\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\frac{1+\sqrt{D}}{2} \end{align}

このとき整数Dは正である必要はなく、したがって虚2次体についても全く同様の表記ができることになります。
例えば、虚2次体K=\mathbb{Q}(\sqrt{-1})については上の命題の(i)が適用でき、その整数環は\begin{align}\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\sqrt{-1} \end{align}となります。これはガウス整数環という名前のついた非常に有名なもので、複素平面上の格子点に対応しています。

一般の代数体の整数環がこのような具体的な表記を持つかどうかというのは非常に難しい問題です。しかし本記事では、殆どの話を2次体に絞ってしますので、まだ整数環に慣れないなあ、という人はひとまず上の例で見たような数全体の事だと思っておいて差し支えありません。

整数環の単数群

では次に、整数環の単数について確認します。

一般に可換環Rの元r単数(単元)であるとは、その乗法に関する逆元が(Rの中に)存在することを言います。つまり数式で書けば\begin{align}
r\in R\text{が単数}\iff \exists s\in R\ s.t.\ rs=sr=1\end{align}
ということです。単数と単数の積はまた単数であることと、1が単数であることからRの単数全体からなる集合は乗法に関して群をなします。これをR^*と書いてR単数群と呼びます。

上の定義をそのまま\mathcal{O}_Kに適用すれば、\mathcal{O}_Kの単数群\mathcal{O}_K^*が得られます。今回はこの\mathcal{O}_K^*の構造を調べていこうというわけです。

さて、これで一通り準備が済んだのでこのまま次節に進んでも良いのですが、もう少しだけ疑問が残りますね。
それは「なぜ単数群の構造を知りたいのか?」ということです。
一般の可換環において単数群というのは重要なものだから、と言ってしまえばそれまでですが、それではあんまりですね…。
ここではイデアルとの関係性からもう一歩踏み込んでお話ししたいと思います。

なぜ単数群を考えるのか。

皆さんご存知の通り有理整数環\mathbb{Z}上では一意的な素因数分解が出来ました。
しかし、\mathbb{Z}を拡張した\mathcal{O}_Kではもはやこれは成り立ちません。

ではどうするのか。その一つの打開策として「イデアル」を考えるという方法が挙げられます。
\mathcal{O}_Kでは一意的な素因数分解は出来ませんが、一意的な素イデアル分解はできるということが知られています*1。素イデアル分解とは例えばガウス整数環\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]におけるイデアル(5):=5\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]を以下のように分解することを言います。
\begin{align}
(5)=(2+\sqrt{-1})(2-\sqrt{-1})
\end{align}
ここで(2+\sqrt{-1})(2-\sqrt{-1})はそれぞれ\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]の素イデアルになっています。
このとき人によっては、別の分解として
\begin{align}
(5)=(-2-\sqrt{-1})(-2+\sqrt{-1})
\end{align}

\begin{align}
(5)=(-1+2\sqrt{-1})(1+2\sqrt{-1})
\end{align}
も考えられるじゃないか!全然一意じゃないじゃん!と思われるかもしれません。
しかし、今はあくまでイデアルとして一意であることを主張しているので上の3つの分解は全て同じことを表しています。
例えば(2+\sqrt{-1})(-1+2\sqrt{-1})はその生成元が
\begin{align}
{}-1+2\sqrt{-1}=\sqrt{-1}(2+\sqrt{-1})
\end{align}
というように単数(\sqrt{-1})倍で写り合うのでイデアルとしては全く同じものになっています。

だんだん、なぜ単数が重要なのかわかってきたでしょうか?

もう少し正確に書いて整理しておきましょう。

いままでは\mathcal{O}_Kの通常のイデアルのみを考えてきましたが、ここからは一般にKの分数イデアルを考えます。

定義.
代数体Kとその整数環\mathcal{O}_Kについて、
Kの有限生成部分\mathcal{O}_K-加群分数イデアルという。
このうち、特に\mathcal{O}_Kの部分加群になっているものを(整)イデアルという。
(0)でないKの分数イデアル全体を\mathcal{I}_Kと表す。

このように定めることによって(0)以外の任意の分数イデアルイデアルの積に関する逆元を持ち、\mathcal{I}_Kは群をなします。(単位元(1)=\mathcal{O}_K

さらに、先ほど言ったように\mathcal{I}_Kでは一意的な素イデアル分解ができます*2
そこでK^*の元に、その元が(\mathcal{O}_K上)生成する単項分数イデアルを対応させ、数の世界からイデアルの世界への写像\Phiを得ます。
\begin{align}
\Phi:&K^*&\longrightarrow &\mathcal{I}_K \\
&a&\longmapsto&(a):=a\mathcal{O}_K
\end{align}
これは明らかに群準同型になっています。
このようにして素因数分解が出来ない、という弱点を克服しようとしているわけです。


しかしこの際、問題点が二つあります。
一つは先ほど見たように「単数倍の違いが無視されてしまう」ということ。
2+i-1+2iは数としては当然違うものですが、そのズレは単数なので\Phiによって写すと同じものになってしまいます。
つまり単数群\mathcal{O}_K^*\Phiという写像の核になっています。
言うならば、
\mathcal{O}_K^*は数の世界からイデアルの世界に写す際に失われてしまう情報を握っている
わけです。
こう聞けば、単数群の構造を知りたいと言うのもうなずけるのではないでしょうか。

また、もう一つの問題点は「\Phiが一般には全射とは限らない」と言うことです。
これは今回の主題からは外れてしまうので簡単に済ませますが、一般に\mathcal{O}_Kが単項イデアル整域とは限らないので\Phiによる像の外側にもイデアルがあるわけです。
これは、数の世界からイデアルの世界に写すときに世界が広がってしまうことを表していて、その広がりの大きさを表すものとしてイデアル類群があります。
こちらも代数的整数論の主役級に大事なものですが今回は紹介にとどめたいと思います。

では次の節から実際に単数群の構造を調べていきましょう。


2次体の単数群

代数体のノルム

まずはじめに整数環の元が単数であることのいい換えをしておきましょう。

代数体K/ \mathbb{Q}(一般には任意の有限次拡大L/K)に対して、ノルム写像というものががあります。\begin{align}
N_{K/\mathbb{Q}}:K\longrightarrow\mathbb{Q}
\end{align}
これは、各元にa\in Kをかけるような\mathbb{Q}線形写像f_a:K\rightarrow Kの(ある基底に関する表現行列の)行列式N_{K/\mathbb{Q}}(a)とするものでした。\begin{align} N_{K/\mathbb{Q}}(a)=\det{(f_a)}\end{align}
定義から直ちに N_{K/\mathbb{Q}}(a)\in\mathbb{Q}が従います。
このとき N_{K/\mathbb{Q}}(a)aと共役な元(つまり最小多項式を共有するもの)を全てかけた値に等しくなることが簡単に示せます。すると根と係数の関係から N_{K/\mathbb{Q}}(a)aの最小多項式の定数項の\pm 1倍とも等しいことになります。
もしa\in\mathcal{O}_Kならば、その最小多項式は有理整数係数ですから、そのノルム N_{K/\mathbb{Q}}(a)\mathbb{Z}に入るということがわかりました。これは重要なので再度式で書いておきます。\begin{align}a\in\mathcal{O}_K\Longrightarrow N_{K/\mathbb{Q}}(a)\in\mathbb{Z}\end{align}

もう一つノルムの重要な性質として乗法性というものがあります。

命題2.
Kを代数体、 N_{K/\mathbb{Q}}をノルム写像とする。このとき任意のa,b\in Kに対して\begin{align} N_{K/\mathbb{Q}}(1)&=1\\
N_{K/\mathbb{Q}}(ab)&= N_{K/\mathbb{Q}}(a)N_{K/\mathbb{Q}}(b)\end{align}が成り立つ。

簡単なので証明しておきましょう。
証明.
まず、1\in Kに対してf_1は恒等写像なのでその行列式1である。
したがって N_{K/\mathbb{Q}}(1)=1
また任意のa,b\in Kに対しf_{ab}abをかけるような写像であったから、f_af_bの合成に一致する。\begin{align}f_{ab}=f_a\circ f_b\end{align}
するとK\mathbb{Q}上の基底を一つ取ったときに、その基底に関するf_{ab}の表現行列は、f_aの表現行列とf_bの表現行列の積に等しい。
よって行列式の乗法性から\begin{align} N_{K/\mathbb{Q}}(ab)= N_{K/\mathbb{Q}}(a)N_{K/\mathbb{Q}}(b)\end{align}
を得る。


これで、以下の命題の証明をする準備が整いました。

命題3.
Kを代数体、\mathcal{O}_Kをその整数環、 N_{K/\mathbb{Q}}をノルム写像とする。このとき次が成り立つ。\begin{align}\mathcal{O}_K^*=\{u\in\mathcal{O}_K\ |\ N_{K/\mathbb{Q}}(u)=\pm 1\}\end{align}

証明.
u\in\mathcal{O}_K^*とすると、そのノルム N_{K/\mathbb{Q}}(u)\mathbb{Z}の単数であるから、\pm 1となる。
逆にu\in\mathcal{O}_K N_{K/\mathbb{Q}}(u)=\pm 1を満たする。
このとき、u\mathbb{Q}上の共役元をu=u_1,u_2,\dots,u_nとすると、ノルムの性質から\begin{align}u(u_2\cdots u_n)=\pm1\end{align}
が成り立つ。よって
右辺が1のときはu_2\cdots u_nが、
右辺が-1のときは-u_2\cdots u_n
それぞれuの逆元となる。
ここでu_2,\dots,u_nuは全てKの整数である。
よって、どちらの場合もu\mathcal{O}_Kの中に逆元を持つことがわかり、u\in\mathcal{O}_K^*を得る。


以上から、代数体の整数環の単数というのは、整数のうちノルムが\pm1のものと特徴付けることができました。
これを使って2次体の単数群を決定しましょう!!

2次体の単数群

ここまでは一般の代数体を考えてきましたが、以下、Dを平方因子を持たない整数、K=\mathbb{Q}(\sqrt{D})とします。

そして以下、簡単のため\begin{align}D\equiv 2,3\mod{4}\end{align}とします。D\equiv 1\mod{4}のケースもほぼ同じ議論ができますが、多少調整が必要になってしまうので、この記事では上のケースのみを扱います。


命題1.からKの整数環\mathcal{O}_Kは\begin{align}\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\sqrt{D}\end{align}
と書き表せていました。
また、z=x+y\sqrt{D}\in K(x,y\in\mathbb{Q})の共役元はz'=x-y\sqrt{D}なので、ノルム写像N_{K/\mathbb{Q}}については\begin{align}N_{K/\mathbb{Q}}(z)=zz'=x^2-Dy^2\end{align}
と簡単に計算できます。

というわけで、これと命題3.を合わせると単数群\mathcal{O}_K^*は\begin{align}\mathcal{O}_K^*=\{x+y\sqrt{D}\mid x,y\in\mathbb{Z},x^2-Dy^2=\pm 1\} \tag{1}\end{align}
と表すことができました!!
さて、この\begin{align}x^2-Dy^2=\pm 1 \tag{2}\end{align}
という方程式、どこかで見たことありますね。そう!これこそ前回の記事で扱ったペル方程式です!!(まあ、タイトルに書いてあるんだからそれしかないですが笑)
ということで、単数を決定することは、(2)のペル方程式を解くことに他ならない!ということがわかりました。
そしてペル方程式の解き方はもう既にやっているので、これで晴れて2次体の単数群の構造がわかると言うことです!!なかなかかっこいい戦略ですよね!

余談ですが、前回の記事でいきなりペル方程式の右辺を1から\pm 1にしたのは、ノルムが\pm 1であるという単数条件に合わせるためだったわけです。

ここでペル方程式の解き方を簡単におさらいしましょう。忘れてしまった方は前回の記事をご覧ください!

ペル方程式 x^2-Dy^2=\pm1の解法
(Ⅰ)\sqrt{D}の連分数展開を求める。
(Ⅱ)そこから\sqrt{D}の近似分数を求めると、その分子と分母が最小解になっている
(Ⅲ)最小解を(x_1,y_1)とし、整数x_n,y_n\ (n\in\mathbb{Z})を以下の式で定める。
\begin{align}
x_n+y_n\sqrt{D}=(x_1+y_1\sqrt{D})^n
\end{align}
このとき、ペル方程式の整数解の集合は
\begin{align}
\{\pm(x_n,y_n)\ |\ n\in\mathbb{Z}\}
\end{align}
と一致する

つまりペル方程式の最小解(x_1,y_1)を使えば\mathcal{O}_Kの単数群は\begin{align}\mathcal{O}_K^*=\{\pm(x_1+y_1\sqrt{D})^n \mid n\in\mathbb{Z}\}\end{align}とあらわすことが出来るわけです!
ここまでくるともはや2次体の単数群は、\sqrt{D}の連分数展開さえすれば決定できると言ってしまえるわけです!

どうでしょう?単数群という中々掴みづらい対象が、かなり簡単なアルゴリズムによって明確に表示できました。これがペル方程式の力なのです!

ということで、次の節では具体的な2次体の単数群を決定していきましょう!

具体的な2次体の単数群

実2次体の場合
例3.\mathbb{Q}(\sqrt{2})
まずはK=\mathbb{Q}(\sqrt{2})の整数環\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\sqrt{2}の単数群を決定しましょう。

今、D=2ですから、前節の議論によりペル方程式\begin{align}x^2-2y^2=\pm 1\end{align}を解けばよいことになります。

\sqrt{2}の連分数展開は前回も求めましたが、\begin{align}
\sqrt{2}&=1+\frac{1}{2+\frac{1}{2+\frac{1}{2+\ddots}}}\\&=[1;(2)]
\end{align}
です。すなわちその近似分数は[1]=\frac{1}{1}になり、最小解は(1,1)であることがわかります。
よってK=\mathbb{Q}(\sqrt{2})の単数群は\begin{align}\mathcal{O}_K^*&=\{\pm(1+\sqrt{2})^n \mid n\in\mathbb{Z}\}\\&=\pm(1+\sqrt{2})\end{align}となります!ただし、最後の(1+\sqrt{2})1+\sqrt{2}が生成する巡回群を表しています。


例4.\mathbb{Q}(\sqrt{7})
もうひとつだけ実2次体の例を見ましょう。
\sqrt{7}の連分数展開も前回求めており、結果だけ書けば\begin{align}\sqrt{7}=[2;(1,1,1,4)]\end{align}で、その近似分数は[2;1,1,1]=\frac{8}{3}です。よって、先ほど同様K=\mathbb{Q}(\sqrt{7})の単数群は\begin{align}\mathcal{O}_K^*=\{\pm(8+3\sqrt{7})^n \mid n\in\mathbb{Z}\}=\pm(8+3\sqrt{7})\end{align}となります!

他にもD\equiv 2,3\mod{4}であるようなDに対しては同様に単数群を決定できますので、是非いろいろと手を動かして計算してみてください!


虚2次体の場合
最後に虚2次体の単数群についてお話します。
このときも実2次体の時と同様、具体的な体に対応するペル方程式を解くことで単数群を決定することが出来ます。しかし、虚2次体の場合はもっとストレートに単数群の構造を求めることが出来ますのでそちらをご紹介します。
一つ注意として、このセクション内でのみD\equiv 1\mod{4}の場合も許すことにします。(ただしDが平方因子を含まないことは仮定します。)

結論としては以下の命題が成り立ちます。

命題4.
K=\mathbb{Q}(\sqrt{D})を虚2次体とする(D<0)。このときKの整数環の単数群\mathcal{O}_K^*について以下が成り立つ。
(i)D=-1のとき、\mathcal{O}_K^*=\{\pm 1,\pm\sqrt{-1}\}
(ii)D=-3のとき、\mathcal{O}_K^*=\{\pm 1,\pm\frac{1\pm\sqrt{-3}}{2}\}
(iii)それ以外のとき、\mathcal{O}_K^*=\{\pm 1\}

まずは証明しましょう。

証明.
u\in\mathcal{O}_K^*を任意に一つ取り、u=a+b\sqrt{D}(a,b\in\mathbb{Q})とあらわす。
このとき命題1.から2a\in\mathbb{Z}が成り立つ。
命題3.から\begin{align}
u\in\mathcal{O}_K^*\iff N_{K/\mathbb{Q}}(u)=\pm 1\end{align}
であった。いまb=0とすると、u=a\in\mathbb{Q}より\begin{align}N_{K/\mathbb{Q}}(u)=\pm 1\iff a^2=\pm 1\iff a=\pm 1\end{align}となる。また、根と係数の関係よりu\in\mathcal{O}_K^*2次方程式\begin{align}X^2-2aX\pm 1=0\end{align}の根になるから、\begin{align}u=\frac{2a\pm\sqrt{(2a)^2\pm4}}{2}\end{align}と表せる。ここで、b\neq 0とすると、u\notin\mathbb{R}であるから、\begin{align}(2a)^2\pm4<0\end{align}でなくてはならず、2a\in\mathbb{Z}と合わせると、これは4の符号がマイナスで、2a=0,\pm1のときしか成り立たない。
以上から虚2次体の単数の候補は\begin{align}\pm 1,\pm\sqrt{-1},\pm\frac{1\pm\sqrt{-3}}{2}\end{align}しかない。これらが実際に単数であることはすぐに確かめられる。
D=-1のときは\pm 1,\pm\sqrt{-1}を、D=-3のときは\pm 1,\pm\frac{1\pm\sqrt{-3}}{2}を、
それ以外のときには\pm 1のみをそれぞれ含む。



この命題によって、特に虚2次体の単数群は有限群であることがわかります。実2次体の単数群は無限群ですから*3、ここは大きく様子が異なることが見て取れます。

ここで、前半の素イデアル分解の話を思い出しましょう。整数環の単数群とは、数の世界からイデアルの世界に移す写像\Phiの核でした。したがって、イデアルの世界において
虚2次体では有限個の"数"が同一視されるのに対し、実2次体では無限個の"数"が同一視される
ということがわかりますね。こういった観点で見ると虚2次体の方が実2次体よりも少し簡単な構造をしているような気がしてきます。

まとめ

とうことで今回は2次体の単数群の決定をしていきました、いかがでしたでしょうか?
ペル方程式のつよつよ具合が少しでも伝わったでしょうか?(笑)

最後に少しだけ発展的な話をします。
実2次体の単数群を決定したとき、その形は(符号)\times巡回群)という形になっていたのに気づいたでしょうか?
実はこれと同様のことが任意の代数体でも成り立ち、単数群は有限アーベル群といくつかの巡回群の直積で書けることが知られています。これはディリクレの単数定理と呼ばれていて、代数的整数論の基礎となる大定理の片翼になります*4
このことが先にわかっていれば、前回の記事でなぜペル方程式の解が最小解で生成されているのかというのがわかりますね。
このようにそれぞれの巡回群の生成元となっているものを代数体の基本単数といいます。
ただ、じゃあ一体いくつの巡回群の直積なのか有限アーベル群って言ってもどれくらいの大きさなのか?という疑問が生じます。それについて詳しく話すことは今回できないので、ご興味があれば最後に紹介する参考文献を見てください!

しかし、単数群という中々とりとめもない対象がここまで綺麗な群構造を持っているというのは何度見ても不思議ですね…(笑)



では最後までご覧いただきありがとうございました!!

コメントはどんなものでも絶賛受け付け中です!
気に入ってくださった方は「読者になる」ボタンやTwitterフォローもポチッとお願いします!

それではまた次回お会いいたしましょう!

参考文献

今回の話の前半部分(代数体の整数環の一般論)については、以下の本を参考にしました。

代数的整数論

代数的整数論


ただ、標準的な代数的整数論の教科書であれば必ず書いてあるような内容だと思います。

後半部分(2次体)については、以下の本がよいと思います。

素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

  • 作者:青木 昇
  • 発売日: 2012/12/21
  • メディア: 単行本




f:id:rusk_mathematics:20200319154826p:plain

*1:証明は代数的整数論の入門的な教科書をご参照ください。

*2:これは少しだけ非自明なことですが、分数イデアルは整イデアルの商で表せることを使えば、分母分子の素イデアル分解をそれぞれ考えることで導かれます。

*3:ペル方程式の解は無限個あることからわかります

*4:もう一つはイデアル類群の有限性です