ラスクのMathematics for Everyone!

数学が得意な人もそうでない人もちょっとだけ楽しめるようなブログです。

べき乗和の公式…差分からのアプローチ!!

皆さんご無沙汰しております。
約1か月ぶりのブログ更新となってしまいました*1
今更ですが、令和初投稿です(←言いたいだけです)。

さて、今回は「差分系和の公式」ということで話していきたいと思います。
これは高校生以上の方なら一度は目にしたことがあるだろう「べき乗和の公式」に関する話で、個人的にも非常に大好きなものです!!
きっと皆さんも気に入ってくれると信じています。

前提知識は高校の「数列」と「多項式の(いわゆる数Ⅱの)微積」のみですので是非眺めて見てください!

また、初めに言っておくと今回の話はみんな大好き『数学ガール(無印)』の内容を参考にしています。
なので、興味を持たれた方はぜひそちらの方も見てみてください!とても面白いですよ!!

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

べき乗和の公式

では、始めていきましょう。
皆さんは以下の公式たちを高校の時に覚えるように教えられたと思います。

\begin{align}
\sum_{k=1}^n k &=1+2+3+\ldots+n =\frac{1}{2}n(n+1)\\
\sum_{k=1}^n k^2 &=1^2+2^2+3^2+\ldots+n^2 =\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \tag{1}\\
\sum_{k=1}^n k^3 &=1^3+2^3+3^3+\ldots+n^3 =\{\frac{1}{2}n(n+1)\}^2
\end{align}

これらの公式は多項式で定義された数列の和を計算する際の基本となるのはもちろんですが、ゼータ関数という非常に面白い対象への入り口とも考えることが出来ます。
おそらく、このような「べき乗和の公式」とは人間が根源的に知りたいと思っている興味の対象なのでしょう(?)

ちなみに、上に書いたのは3乗までの公式ですがこれを一般のm乗にした公式は関孝和やベルヌーイによって求められています。


べき乗和の公式(1)/ファウルハーバーの公式
\begin{align}
\sum_{k=1}^n k^m=\frac{1}{m+1}\sum_{i=0}^m {}_{m+1}C_i\ B_i\ n^{m+1-i}\ (m\ge0)\tag{☆}
\end{align}

ここでB_iとはベルヌーイ数と呼ばれる重要な数であり、以下のような式により逐次的に求まります
\begin{align}
B_0=1,\ \sum_{i=0}^n(-1)^i {}_{n+1}C_i\ B_i=0(n=1,2,\ldots)
\end{align}

具体的には
\begin{align}
B_0=1,B_1=-\frac{1}{2},B_2=\frac{1}{6},B_3=0,B_4=-\frac{1}{30},\ldots
\end{align}
となります。
この公式も非常に美しく、ベルヌーイ数の話もいずれしたいですが今回はそちらには立ち入りません。気になる方はWikipediaへgo!

ja.wikipedia.org


それよりも例えば2乗の公式
\begin{align}
\sum_{m=1}^n m^2 &=1^2+2^2+3^2+\ldots+n^2 =\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1)
\end{align}
をもう一度見て、シンプルな感想を考えてみてください。

なんかゴチャゴチャしてて覚えづらい…

というのが普通なのではないでしょうか?
もちろんこれは2乗に限った話ではなく、345乗と増やしていけばもっとゴチャゴチャします。
ただ何とかしたいと言っても、これはある意味完成されたものでこれ以上簡単にすることは残念ながらできません。

しかし
なぜこんなにゴチャゴチャするのか?という理由を考えることによって、少し形の変わった綺麗な公式を見つけることが出来ます。

今回はその話をしようと思います。結論を早く知りたい方は「下降階乗冪と和の公式」の節を読んでください!!

積分についてみてみると…

「べき乗和の公式」がゴチャゴチャする理由を考える前に以下の式を見てみましょう。
\begin{align}
\int_0^x t dt &= \frac{1}{2}x^2\\
\int_0^x t^2 dt &=\frac{1}{3}x^3 \tag{2}\\
\int_0^x t^3 dt &= \frac{1}{4}x^4
\end{align}
これは当たり前の公式ではありますが、改めてみると非常に綺麗で覚えやすいですね。このようなことが成り立つ理由はどこにあるのでしょうか?


そもそも、不定積分微分の逆演算だったので、(2)の式は

(\frac{1}{m}x^m)'=x^{m-1} (mは1以上の整数) \tag{3}

が成り立つことを言っているわけです。
このような綺麗な式が(たまたま)成り立つから不定積分の式は綺麗になるのです。


そして、(通常)微分積分連続的な世界で定義されるものです。

対して、今回のテーマである和\sum離散的な世界での積分に当たるものです。

では離散的な世界での微分に当たるものは??

察しの良い方はお気づきだと思いますが、それが今回のキーワードである差分です。
よって次の節では、差分を定義してそれについて考察していきましょう。

差分と和

という事で差分を定義しますが簡単のため整数全体(これを\mathbb{Z}で表します)の上で定義された関数を考えます。


定義(差分)
整数全体\mathbb{Z}上で定義された実数値関数f(x)に関してその差分\Delta f=f^{[1]}(x)
\begin{align}
\Delta f=f^{[1]}(x)=\frac{f(x+1)-f(x)}{(x+1)-x}=f(x+1)-f(x)
\end{align}
と定義する。

はい、こんな感じです。結局これは何をしているのかというと、もともと微分というのはある点における微小な変化量を見ていたわけですが、離散的な世界では極限という操作が実行できません。最も差が小さいとしても、それは1が限度なので、そこまで近づけた変化量を見ているわけです。

例えば、f(x)=x^2に対してその差分は
\begin{align}
f^{[1]}(x)&=f(x+1)-f(x)\\
&=(x+1)^2-x^2\\
&=2x+1
\end{align}
といった具合に計算できます。

そして少し注意は必要ですが、今定義した差分と和\sumは逆演算になっています。
実際、差分してから和をとった以下の計算をすると、
\begin{align}
\sum_{i=0}^{n-1} f^{[1]}(i)=\sum_{i=0}^{x-1} (f(i+1)-f(i))=f(n)-f(0)
\end{align}
となります。

注意するのは2点です。
①和が0からn-1までになっていること。
②最後に-f(0)というものがついていること。
①は最後の式にf(n)が出てくるよう調整したもので、②は積分定数(あるいは初期条件)のようなものです。
ここら辺は本質的なものではないので、よくわからなければ飛ばしても大丈夫です。


とにかく今、定義したことにより離散的な世界での微積分に対応するものが出来たわけです!

下降階乗冪と和の公式

それでは、上のような対応を意識しつつ連続的な世界での微積分の公式
(\frac{1}{m}x^m)'=x^{m-1} (mは1以上の整数) \tag{3}
を離散的な世界の公式へと変換したいと思います。

ここで、かなり天下りですが以下の関数を考えます。
\begin{align}
f(x)=x(x-1)\ldots(x-m+1) (xは整数、mは1以上の整数)
\end{align}
これは階乗の計算を最初のm個で止めたものです。
以下この関数をx^{\underline{m}}と書き、下降階乗冪と呼ぶことにします。

そして、ここがおもしろいところですが、この関数の差分を考えてみると次のようになります。

\Delta x^{\underline{m}}=(x+1)^{\underline{m}}-x^{\underline{m}}
=(x+1)x(x-1)\ldots(x-m+2)-x(x-1)\ldots(x-m+2)(x-m+1)
=x(x-1)\ldots(x-m+2)\{(x+1)-(x-m+1)\}
=mx(x-1)\ldots(x-m+2)
=mx^{\underline{m-1}}

つまり、こういう事です!


\displaystyle\Delta \frac{1}{m}x^{\underline{m}}=x^{\underline{m-1}} (mは1以上の整数) \tag{4}

どうでしょう!!だいぶ天下りであったとはいえ、離散的な世界の差分について(3)と同様の式を見つけることが出来ました!

そして、これを
\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}k^{\underline{m}}=\sum_{k=0}^{n-1}k^{\underline{m}}に注意して*2、和に関する式に直せば


差分系和の公式
\begin{align}
\sum_{k=1}^{n-1} k^{\underline{m}}=\frac{1}{m+1}n^{\underline{m+1}}\ (m\ge1) \tag{5}
\end{align}

を得ます。(ちなみにここで先のf(0)0なので消えています)

これで和に関しても積分と同じような美しい公式を得ることが出来ました。
結局通常のべき乗はどちらかといえば連続的な世界の計算に適しており、和という離散的なものとは相性が悪いわけです。
それに対して下降階乗冪という離散的な世界と相性のよいべきは、和の公式でも美しい形を保ってくれるというメカニズムになっています。
離散的なものと連続的なものは性質が大きく違うので、それを同時に扱ってしまっていることが「べき乗和の公式」を難しくしている要因なわけです。

ちょっと変わったべき乗和の公式へ

さて、これで終わってもよいのですがせっかくなのでもう少しこの公式を応用してみます。
差分に関する和の公式(5)は非常に綺麗な形で得られましたが、これを使って通常のべき乗和の公式をファウルハーバーの公式(☆)とは別の形で表してみましょう。

\displaystyle \sum_{k=1}^n k^mを求めたいわけですが、(5)を使うためm\ge1としておきます。
そしてk^mを下降階乗冪を使って以下のように表せることが知られています。
\begin{align}
k^m=\sum_{i=0}^m\left\{
\begin{array}{c}
m \\
i
\end{array}
\right\}k^{\underline{i}}
\end{align}
ここで\left\{
    \begin{array}{c}
      m \\
      i 
    \end{array} 
  \right\}(0\le i\le m)第2種スターリング数と呼ばれるもので以下の性質(漸化式)を持ちます。



\displaystyle\left\{\begin{array}{c}m \\ 0 \end{array} \right\}=0(m\ge 1),
\left\{\begin{array}{c}m \\ m \end{array} \right\}=1(m\ge 0)

\displaystyle\left\{\begin{array}{c}m \\ i \end{array} \right\}=\left\{\begin{array}{c}m-1 \\ i-1 \end{array} \right\}+i\left\{\begin{array}{c}m-1 \\ i \end{array} \right\} (1\le i\le m)

この漸化式により、第2種スターリング数は逐次的に求めることが出来ます。
例えば、
\begin{align}
\left\{\begin{array}{c}2 \\ 1 \end{array} \right\}=\left\{\begin{array}{c}1 \\ 0 \end{array} \right\}+1\times\left\{\begin{array}{c}1 \\ 1 \end{array} \right\}=0+1=1 \\
\left\{\begin{array}{c}3 \\ 2 \end{array} \right\}=\left\{\begin{array}{c}2 \\ 1 \end{array} \right\}+2\times\left\{\begin{array}{c}2 \\ 2 \end{array} \right\}=1+2=3
\end{align}
などと計算されます。

そしてこれを使うと\displaystyle \sum_{k=1}^n k^m(m \ge 1)は次のように表すことが出来ます。
\begin{align}
\sum_{k=1}^n k^m &=\sum_{k=1}^n \sum_{i=0}^m \left\{\begin{array}{c}m \\ i \end{array} \right\}k^{\underline{i}}\\
&=\sum_{i=0}^m \left\{\begin{array}{c}m \\ i \end{array} \right\}\sum_{k=1}^n k^{\underline{i}}\\
&=\sum_{i=0}^m \frac{1}{i+1}\left\{\begin{array}{c}m \\ i \end{array} \right\}(n+1)^{\underline{i+1}}(m\ge 1)
\end{align}

ここで2行目は和の順序の入れ替え、3行目で(5)を使っています。
この式も(☆)とは違った形のべき乗和の公式といえるのではないでしょうか?
結果だけもう一度書いておきます。


べき乗和の公式(2)
\begin{align}
\sum_{k=1}^n k^m=\sum_{i=0}^m \frac{1}{i+1}\left\{\begin{array}{c}m \\ i \end{array} \right\}(n+1)^{\underline{i+1}}\ (m\ge 1) \tag{☽}
\end{align}

例えばm=2としてみると
\begin{align}
(☽)&=\sum_{i=0}^2 \frac{1}{i+1}\left\{\begin{array}{c}2 \\ i \end{array} \right\}(n+1)^{\underline{i+1}}\\
&=\frac{1}{0+1}\left\{\begin{array}{c}2 \\ 0 \end{array} \right\}(n+1)^{\underline{0+1}}+\frac{1}{1+1}\left\{\begin{array}{c}2 \\ 1 \end{array} \right\}(n+1)^{\underline{1+1}}+\frac{1}{2+1}\left\{\begin{array}{c}2 \\ 2 \end{array} \right\}(n+1)^{\underline{2+1}}\\
&=0+\frac{1}{2}(n+1)n+\frac{1}{3}(n+1)n(n-1)\\
&=\ldots\\
&=\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1)
\end{align}
となり、よく知られたものと一致します
m=3のときは…読者への演習問題とします*3


もちろんこの公式(☽)を使うにはスターリング数の値を知っていなければなりませんが、ファウルハーバーの公式(☆)もベルヌーイ数を知らなければいけないという点において同じです。
という事で、(☽)の公式も実用性という点においては(☆)と同じなのではないかと思っています。
ただし、(☽)には単なる冪ではなく下降階乗冪が残っています。この部分は通常の冪に直すこともできるのですが第1種スターリング数まで出てきて非常にゴチャゴチャするので止めました。
また細かいことですが(☽)の方はm=0では不成立であり、(☆)の方はm=0でも問題なく使えます。
ということで、総合的にはやはり(☆)の公式の方に軍配が上がるかもしれませんが僕は(☽)の公式も非常に綺麗だと思っています*4

また、どちらの公式にも共通することとして
「単純な係数を持つ多項式にはなっていない」
=「ベルヌーイ数、スターリング数というような特殊な数が必要」

という事があげられます。

これこそが、先ほど話した離散的なものと連続的なもののズレを表しており、ベルヌーイ数やスターリング数はそうしたズレに対するしわ寄せだと思うことが出来ます。

非常に面白いですね!!

終わりに

ということで、今回は差分系和の公式というタイトルで話してみました。いかがでしたでしょうか?
離散と連続というのは非常に大事な視点ですが、知らない人にとっては新鮮な考え方かもしれないので紹介させていただきました!
最後のべき乗和の話は個人的によく書けたのではないかと思っています(笑)

冒頭でもお話しした通り、下降階乗冪の話は『数学ガール(無印)』の方に、僕の説明よりも何十倍もわかりやすい説明があるので読んでみることをお勧めします!!!

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

最後になりますが、せっかく今回差分を定義したのでこの話をもう少し別の方向に進めた記事をいつか書きたいと思っています。
具体的には差分を用いたテイラー展開の話がしたいと思っています。
それが次回の記事になるのかどうかはわかりませんが完成しましたら、そちらのほうもご覧いただけるとうれしいです!




では最後までご覧いただきありがとうございました!!

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それではまた次回お会いいたしましょう!

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*1:まぁ正直今後もこのくらいのペースになると思います。

*2:ここでm1以上としていないと困ります。

*3:一度言ってみたかったのです

*4:ただこの二つの公式おそらく式変形していけば片方から片方に移れるのだと思います。ただその辺の計算に弱いので、自分ではそれを示せませんでした。どなたか教えていただけたら嬉しいです。